大村駅から歩いてすぐ。セレクトショップ「テイクオフ大村店」の奥のスペースに、コンテナで営むスイーツショップがあります。店の名前は「TAKEMURA」。毎朝作ったお菓子のみを販売しており、店頭やショーケースには所狭しとおいしそうなケーキや焼き菓子たちが並んでいます。2014年9月にオープンし、来年で創業10年を迎える同店は、地元の人から愛され続け、観光客からも注目されている人気店です。
店頭に立つ竹村健さんは、パティシエ歴42年の大ベテラン。50歳にしてお店を開き、一人で運営し続ける竹村さんは、どういう人物なのでしょうか?お店に伺ってインタビューを行い、これまでのストーリーや、お菓子作りに対してのこだわり、そして今後のビジョンについて聞いてみました。
ルーツは母の手作りのおやつ

竹村さんがお菓子作りに興味を持ったのは、幼少時の母との思い出が大きく関係していました。
竹村:「母はおやつ作りが好きだったんです。遠足の時、普通だったらいくらまででとか言われてお店で買ってくるものだと思うのですが、うちの母はそれも作ってくれてたんですよ。それを学校の先生が『すごい幸せなことだよ』と言ってくれて、うれしかったですね」
さらに、近所に家族経営のケーキ屋があったことも、パティシエになる夢を持つきっかけになりました。
竹村:「すてきなお店だなと思っていて、学校が終わったら、よく行ってました。お手伝いというほどではないけど、クリスマスの時期にイチゴを載せてもらったりして、そういうのが楽しくて。将来おれ料理人かケーキ屋さんかなみたいな気持ちになったんですよ」
当初は料理を作ること全般に興味がありましたが、次第にお菓子作りに絞って勉強していきたいという気持ちが湧いてきます。
竹村:「フランス料理とかもしたかったんだけど、向こうのシェフはまずお菓子から勉強されるらしいんですよ。そこで僕も最初にやっぱお菓子の研究しようかなみたいな淡い考えで。最初に行ったところがホテル出身の方で、自分のとこだったら3年ぐらいでいろんなお菓子を君に教えてあげれるよと言ってくれました」
本格的なお菓子作りを学ぼうと思ったら、ホテルで修行しようと思ったら5,6年はかかり、10年くらいかかるところもあるとのこと。その中で、3年ほどでお菓子作りを勉強できるのはかなり幸運だったのでしょう。
ホテルニュー長崎で修行を積む
竹村:「東京のガトークラブっていうお菓子屋さんの勉強会があって、東京プリンスホテルで勉強会があったんですよ。初めて見るそのホテルのキッチンで、スタッフの躍動感とか、きれいな白衣を着て赤い帽子かぶってみんな生き生きしてる姿とかを見て、素晴らしいと思いました」
もともとホテルで働くことを夢見ていた竹村さん。その勉強会での様子を見て、その憧れが強くなります。さらにそこで出されたデザートにも感動したそうです。
竹村:「フリーズジュビレって、さくらんぼをコンポートしたのをフランベして、冷たいアイスクリームを添えて作ってるものだったんです。食べておいしかったし、温かいものと冷たいものを組み合わせているのが自分の中でヒットして、これだと思いました」
そこで、そのときにお世話になっていた社長に、いろんなホテルに行って研修したいという旨をお願いしました。そこで地元の長崎県にあるニューオータニ系列のホテルニュー長崎にて、研修を始めます。
そのホテルニュー長崎での修行時代には、作ったスイーツが雑誌「婦人画報」に紹介されるほどに。一流のパティシエへと成長した竹村さんは、50歳にして新たな挑戦を始めます。
お客さんの笑顔を見られるのが幸せ

竹村:「ホテルでずっと勤務しててもよかったんですけど、やっぱり最初から最後まで自分で責任持ってお客さんと対応してみたいなと思っていました」
もともと竹村さんは定年退職してから、自分のお店を構える構想を立てていました。しかし、縁があって現在の物件を紹介してもらったことで、50歳にして早期退職し、独立することになります。
竹村:「とにかくミニマムにっていうか、かっこをつければコンパクトにやりたいなと思って、こういうスタイルでやってみました」
お店があるのは、セレクトショップ「テイクオフ大村店」の隣のコンテナ。店頭は1人が立ってやっとのスペースですが、こういったスタイルはヨーロッパなどではよく見かける形式の店舗です。オープンしたのは2014年9月19日。2024年で創業10年を迎えます。
竹村:「お菓子買いに来られるお客様ってすごく笑顔なんですよね。あと、お誕生日のケーキを頼まれる方には、必ずお渡しする時にケーキを見ていただくんですけど、そのケーキを見ていただいてすごく笑顔を見せてくれるので、すごく僕も幸せな気持ちになります」
そう語る竹村さんの表情は柔和で、こういったコミュニケーションをしたくて、お店を開きたかったのだろうなという気持ちがひしひしと伝わってきます。
地元の食材にこだわったお菓子作り

竹村:「ずっと一人でやっているので、お客様がこのおっちゃんを応援してやろうみたいなのがありますよ。製菓学校や高校の生徒が来て、今度は親を連れてきてくれたり、農家の方が応援してくれたりというのはうれしいですね」
できるだけ地産地消を心がけているという竹村さん。特に第11回「おおむらじげたまグランプリ」の最優秀賞を受賞した「至高のベイクド・チーズケーキ 福重巨峰のラムレーズンを添えて」では、地元大村の福重の巨峰を使っています。
竹村:「長崎県食品開発支援センターに委託して、特殊な干しブドウを作ってもらったんですよ。平戸のおいしいみりんや、熊本産のクリームチーズを使ってブレンドして作りました」
大村市の新しい手土産としても注目される一品。しっとりとした食感と芳醇な香りを楽しめます。
体が動く限りは続けていきたい

パティシエ歴42年になる竹村さんは、今でも初心を忘れずにお菓子作りに励んでいます。
竹村:「仕事は初心であると思ってますね。スポンジ一つ焼くにしてもやっぱ違うんですよね。スポンジを作る時に粉を入れて合わせていく作業があるんですけど、なじんでるって思った瞬間がうれしいんですよ。毎朝の繰り返しなんだけど、そこでブレがない。そういうのがプロかなと思うし、気持ちも穏やかでないとできないですね」
60歳を迎えても現役バリバリ。今後のビジョンについても語っていただきました。
竹村:「体が動く限りはしたいなと。ライフワークじゃないですけど、実際こうお客さんと話すのはやっぱ楽しいんですよね。欲をいえば、もう少し広めの空間も欲しいなと。お茶を飲める空間が二席でもあればいいなと感じで、ゆっくり話せる空間も欲しいんですよ」
お客さんとのコミュニケーションを大事にする竹村さんならではの考えだと感じました。
竹村:「いろんな人に教えをいただいてよかったなと思ってます。大村に生まれて大村の人たちに育てられて、今度僕がその恩返しをできたらなと。僕の持ってる技術を提供して喜んでもらいたいなっていう、ただそれだけです」